世界中の子と友達になれる
横浜美術館で、開催中の「松井冬子展」。
美人の日本画家ということでも話題になりましたが、やはり魅力はあまりにも痛々しく怪しい作品群でしょう。
上の手足が血だらけの少女の絵が、題名とどうつながっているのか、なんで血だらけなのか理解できないでいましたが、以下に引用する解説を読んでやっとわかって、少女の苦悩が伝わってくる気がしました。
見るほどに痛みを感じさせる絵画がかつてあっただろうか。臓器をあらわにする女性、朽ちていく足、幽霊が静謐(せいひつ)な空間に浮かび上がる。森町出身の日本画家、松井冬子さん(37)は「単なる感傷とは異なる知覚的な痛覚」と表現する。その全貌を明らかにした「松井冬子展—世界中の子と友達になれる」が3月18日まで、横浜市の横浜美術館で開かれている。
松井さんは絹地で仕上げる伝統技法によりながら、常軌を逸した女性の情念、狂気を追い求める独自の世界観で注目を集める。大規模な展覧会は2008年の平野美術館「浜松市」以来、公立美術館では初となる。東京芸大時代から最新作まで、日本画、下絵図も含め107点を展示している。逢坂恵理子館長は「ルネッサンス期の西洋絵画の特徴が垣間見える。テーマは極めて現代的。心身の痛み、避けられない死を科学者のような冷静な目で描き尽くす現代美術」と評価する。
今回、卒業制作のタイトルで本展の副題でもある「世界中の子と友達になれる」(02年)を写生から習作、下図までを公開している。
藤棚を進む裸足(はだし)の少女。よく見ると、藤には無数のスズメバチ、少女は手足を血まみれにする。藤の周到なスケッチ、狂気に変わる瞬間を描き出そうと画面構成を変えていく下図に、試行錯誤の跡が見て取れる。
松井さんは「小学校までは誰とでも友達になれた。それが実現不可能だと分かると、狂気の言葉に変わった。窮地に陷るたび、このフレーズが蘇って(よみがえって)くる」と明かす。
東日本大震災後、しばらく絵筆を執ることができなかった。「やはり自分の絵を描くしかない」と、本展で多くの意欲作を發表。中でも、仏教の「九相図」に想を得て、女が死後、腐敗し骨へと朽ちていく連作に力がこもる。
「私たちは無機質で整備された世界に生かされている。人は亡くなったらどうなるのか、真実はどこにあるのか、日本が持つ現代の病を描く」。人知を超えた力で失われる命。その喪失感、無力感を受け止め、生きる意味を探す手がかりが松井さんの絵にあるかもしれない。(静岡新聞2012/01/13付)
松井冬子氏
松井冬子展 http://t.co/0BTIpuJ2